ハツリの技と伝統の継承
山中漆器をもっと身近な存在に。日常とともにある器。
有限会社 石川漆宝堂
石川 稔
表裏に無数のハツリを施したフリーカップ。 ハツリとはノミや鉋の削り跡を生かす技術だが、深い器の内側にまでハツリを入れることができる職人は、名だたる木地師が活躍する山中漆器でもたった2人しかいない。 「その卓越した技を、現代の暮らしに合う美しいカタチに仕上げたい」 と、長年温めていた構想を実現させた。 表裏のハツリはまさに熟練職人の技の軌跡。 味わい深い表情と手になじむやさしい凹凸、 溜塗仕上げのしっとりとした深い色合いが秀逸だ。
自社工房で塗師としての仕事をこなしながら、新商品のデザインを手がける。「普段使いができ、使うほどに深みを増す漆器を作ること」 が石川さんの信条。 だから常に使い手のことを思う。
水面に幾重にも輪を描くさまをモチーフとした波紋筋のカップは、山中漆器ならではの木地挽き技術を生かしつつ、使いやすさに最も心を砕いた。 シャープな直線と柔らかな波紋の巧みなコントラストは、美しさと持ちやすさを兼備。 サクラ材の木目を生かすため外側は木地溜塗で仕上げたが、飲み物の色を楽しめるように内側には白漆を用いた。 石川さんの器は、伝統の職人技を、ほっとした和みに変えてくれるのである。