学生時代を札幌で過ごした。金沢では当たり前の如く身の周りにあった古い物が、北海道には無い。何もかもが洋風で新しく思え、金沢が妙に懐かしくなったそうだ。母の作る加賀てまりや祖母の得意な加賀ゆびぬきに愛着を抱くようになったのは、故郷を離れたおかげと微笑む。
大西さんの作るゆびぬきは祖母直伝である。かつては、加賀友禅のお針子達が正月休みに余り糸から作るのが習慣だったというが、今では「ゆびぬきって何?」と問われる存在となってしまった。幾何学模様の美しさに魅せられた祖母により、何百種もの加賀ゆびぬきが図面と共に残されたことは、大西さんにも我々にも大きな幸運だったといえよう。
厚紙で作った型を布でくるみ、真綿をかける。数百種もある糸色から数色を選び出し、型のぐるりを順々にかがっていくと、精緻な幾何学柄が浮かび出す。
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厄除けとして人気の高いうろこ模様を基本に、青海波、矢羽根、金魚…。絹糸が紡ぎ出す世界はどこまでも細やかで優しく、見る人の心を惹きつけてやまない。
一昨年にはNHK「おしゃれ工房」で大好評。大西さん主宰のゆびぬき教室もますます活気を帯びている。
「こんなに小さいのに、模様は果てしないんです。これからもいろんな模様を創作していきたいですね」。
彼女のほっそりと美しい指は、伝承の手仕事を次代へ伝えるという大切な役割を担っている。 |