「父は、私達が継ぐとは思ってもいなかったようです」と苦笑する岩本さん。まもなく創業百年を迎える岩本清商店に生まれ育ったが、父も娘も、当初は桐工芸の歴史にそろそろ幕引きを、と考えていたそうだ。
金沢桐工芸は、雪国の良質の桐を素材とする金沢独自の伝統工芸である。白木をそのまま見せる桐箪笥などとは対照的に、金沢桐工芸では、焼いた肌に蒔絵を施すという独特の加工・加飾を行う。メイン商品は、桐火鉢。暖房の主力が火鉢からストーブに移るとともに数多くあった桐工芸業者は次々と姿を消し、今では金沢に3軒が残るのみとなった。
「是が非でも守る、という堅い決意ではないのですが、このまま自然消滅する前に、一度トライしてみるのもいいかなと思ったんです」。 |
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パートナー、内田さんは湘南生まれ。岩本さんとは東京の大学で出会い、彼女とともに東京での会社勤めをやめて金沢に移り住んだ。
「金沢桐工芸は木目と蒔絵が一緒に楽しめるのが特長です。それに、杉などはバーナーで焼くと木目が出るんですが、桐は逆に木目がすうっとへこんでぼっこりとした柔らかな風合いが生まれます。軽くて扱いやすいし、熱にも強く、使い込むほどに色艶が深まる。桐工芸の良さを多くの方に知っていただけるといいですね」。
木だからできるもの、桐だから表せるものを追求したい、と語る。何の気負いも衒いもなく、桐工芸の明日を探し始めた二人である。 |