修業時代から茶道具を作り続けて20数年。古典の写しや、絵柄や色合いに制約が多い仕事に次第にストレスがつのった。「もっといろんな表現を試したい」。強い欲求に突き動かされた東藤さんは、公募展に出品。幾何学模様を取り入れた斬新なデザインの茶道具が高い評価を受け、大きな自信につながった。
さらなる転機は、万年筆との出会い。小さく細い円筒形の中で自在に仕事ができる。幾何学模様と具象をあわせた絵柄、ピンクやオレンジなど鮮やかな色彩を使ったりと、これまでの縛りから解き放たれたかのように、万年筆の世界に魅了されていった。
今回の箸『雪月花』は、万年筆の作風の延長線上にある作品。
|
|
細長い形状を生かしながら、卵の殻や青貝、銀平目を用いて日本の自然を華麗に表した。東藤さんは「お正月や祝いの席などに使ってほしい。特別な日には特別な箸を使ってもいいのでは」と提案する。
一時は工業デザイナーを夢みたこともあるという東藤さん。2年前に自らデザインした工房が完成し、吹き抜けの開放的な空間で作業に没頭する毎日だ。「もともとシンプルですっきりとしたものが好きなんです。万年筆や箸のような形状は自分に合っているのかもしれません」。
シャープな形と絢爛豪華な蒔絵。互いを引き立てあって生まれる見事な芸術性に気づいた東藤さんは、水を得た魚のようにいきいきとして見えた。 |