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漆
漆と過ごす時間
漆と暮らしの距離が、
もっと近くなることを願いながら。
名雪 園代
長さも柄もまちまち、子どもの頃を思い出して微笑んでしまいそうな鉛筆がころがっている。思わず手に取り、使ってみたくなるのだが、「本物の鉛筆じゃないんです。漆で色づけしたものなので文字は書けません」と名雪さん。
このキーホルダー、実は箸の端材を利用したものである。箸を作る際に生じる端切れが捨てがたく、いつの間にかそれなりの量が貯まった。端材の山に手を突っ込むと、木がぶつかって心地のいい音が響く。何か用途を、と探るうちに行き当たったのがこの形。多様な色漆を塗り重ね、思うままに模様を描き、研ぎ出しながら楽しい世界を広げていった。鉛筆を手にする機会が減った大人たちに昔懐かしいぬくもりを伝えると同時に、漆にあまりなじみのない人には、これを通じて漆というものの存在や価値に気づいてもらえたら、との願いもそっと潜ませている。
一方の夕焼けをモチーフにしたお椀にも、漆を日常生活にとの思いがにじむ。漆器としてはもっとも身近なアイテムであるお椀をセレクト。そこに夕焼け空を写し出した。朱、白、青と漆の色を微妙に切り替え、透き漆を被せ、研ぎ破れの表情なども活かしながら雲が重なり、光が乱反射する美しい空を表現した。
漆に関心のない人でも思わず目をとめ、手にしたくなる。そんな普段使いの器が提案されている。