ときの箱
大切な思い出や過ぎ去った時間の
ひとかけらをこの箱に。
松田 苑子
手の中に収まりそうな小箱が2パターン、静かにたたずんでいる。純白の小箱は角砂糖にも、あるいは雪のかけらにも見え、そっと触れてみたくなる魅力を秘める。もう一方は、すりガラスの小箱。光に寄り添われた繊細な表情が印象的だ。箱の表面には花の意匠が刻まれ、見る人を極小の宇宙へと導く。
「大切なものを入れておく箱として作りました」と松田さん。過ごしてきた時間の中で、とりわけ大切にしたいひとかけらをここに入れ、手元で慈しんでもらえたらとの思いから「ときの箱」と名づけた。用いた技法は「パート・ド・ヴェール」。フランス語で「ガラスの練り粉」を意味する鋳込みガラス技法で、光の柔らかなテクスチャーが特徴である。箱の表面を飾る花々は、「再会」「愛情」など花言葉の意味合いを選んで意匠化し、サンドブラストで描き込んだ。
ジュエリーを入れる人もいればへその緒を仕舞う人もいるが、ある日、夫の遺骨入れを探す女性が手にしたのが『祈り』の花言葉だった。導かれたかのような出会いに感動した、と松田さん。「どんな方がどんな思いで使うのかを想像しながらいつも作っています。 中身がぼんやり透けて見えるのも、ガラスの箱ならでは。大切なものと過ごす時間を分かち合える存在になれば」。「ときの箱」の可能性を追い続けている。