石川の工芸の魅力 審査会終了後の講評をまとめてみました。 構成/事務局 松山 治彰 |
■事務局 このカタログは、「加賀百万国の万華鏡」をテーマに出品を呼びかけ、応募のあった作品の中から、厳しく楽しい審査会を経て「石川県デザインセンター選定商品」として選ばれた作品をご紹介するものです(事業概要の詳細は裏表紙をご覧ください)。審査会を終えてのご感想をお聞きしました。 ■吉野 普段の仕事では、商品を深くみる前に、どうしても「売れるかな」という観点でみてしまいがちでした。 でも、この審査会は、作品が「良いか、悪いか」を審査するのではなく、作り手の人たちが、どんな場所で、どんなことを考えながら創作に取り組んでいるのかをじっくりと聞かせていただく機会となりました。 東京からみた石川は、九谷焼、輪島塗、山中漆器、加賀友禅など「伝統工芸の宝庫」という印象がとても強く、伝統の技を若い人たちが今に脈々と引き継いでいるところと思っていました。 ところが、いろんな方がいらっしゃるんですね。もちろん、伝統を受け継ぐ方もいらっしゃいますが、全国から人が集まり、工芸を学び、創作の拠点を構えた人。結婚やご主人のUターンを機にこの地にきて工芸を始めた人。素晴らしいのはご主人を連れて帰ってきた人もいらっしゃることです。 |
■東 石川には金沢美術工芸大学をはじめ、金沢卯辰山工芸工房、輪島漆芸技術研修所、九谷焼技術研修所、山中漆器産業技術センターなど工芸を学ぶ施設が本当に充実しています。 ですから、いろんな人たちが集まり、「伝統を今に」だけではなく「自分が作りたいものを作るんだ」という思いに溢れた、個性的で創造的な人たちで一杯なんです。 |
■大原 石川の工芸は、よく京都と並び称されますが、日展や伝統工芸展を目指す人たちが沢山いらっしゃる。またクラフトかアートかという議論も多いところです。 どっちが良いか悪いかではなく、いろんな考え方があってもいいと思います。今回、審査会というより意見交換会に参加させていただいて嬉しかったのは、どなたも「新しい時代を切り開こう」という思いに溢れていることでしたね。 |
■東 私も「金澤」という雑誌の編集に携わっているんですが、取材していて思うのは、皆さん肩に力が入っていない。背伸びせず、日々の生活の延長線上で、日々の生活を楽しむという気持ちで創作に取り組んでいる。これは石川の工芸の魅力の一つかもしれませんね。 |
■吉野 ここにご紹介する人たちの作品から、そんな思いが伝わってきますね。売れるか売れないかの話で恐縮ですが、代々続く窯元の作品だからとか所属団体がどこのといってもお客様はそう立ち止まってくれなくなりました。実力、技術、センスも大切ですが、一番大切なものはお客様が立ち止まり、手にとって、買ってくれる「心を打つ何か」なんです。 ■大原 そんな魅力の向こうには「石川」「金沢」という歴史と文化の積み重ねが見え隠れしています。 こうした地で創作に励んでいらっしゃる方はうらやましい限りです。でも工芸で生活していけるかというとなかなか厳しいものがありますね。 若い人たちは、学校で技術を勉強しても、卒業した後どうやって生きていくか教えてもらっていません。ですから、なかなか売り場まで辿り着けない。 デパートは、売上げを守らなければならないので、出入りの問屋さんを絞ったり、売れ筋商品だけを並べたり、そして売り場がつまらなくなった。なんとかしようと思っても、売り場も問屋さんも、新しい、若い人たちの情報をもっていない。 そんな作り手と売り手を結ぶのがこの事業の意味だと思います。 |
■吉野 特に今日(12月16日)は、年末の大雪で飛行機や電車が動くかどうかわからないという危ない1日でした。今回のテーマの「加飾の世界」も最初はどういうものなのかと思いましたが、この雪を見て「加飾」の意味と大切さを実感しました。 ここ何十年か、お料理を盛りつけた時に装飾は不要とばかりにモノトーンの器が主流でしたね。でも石川の「加飾」はオーバーデコレーションではなく、暗い冬のモノトーンの空の下で日々を愉しむものなんだなあということを改めて感じました。 |
■東 私は工芸やデザインの専門ではなく、あまり難しいことを考えたことはなかったんですが、皆さん、「加飾」を自分の表現力を発揮するための大切なアイテムとして使っていらっしゃることは確かです。お一人お一人のお話は本当にお伽話のようですよ。 |
■事務局 いろいろとありがとうございます。 このカタログにご紹介する作品は、そんなお伽話のような石川の工芸の新しい魅力をご紹介するものです。 ご活用いただければ幸いです。 |