小さな箱に「これが漆だったんだ」と吸い込まれてしまいそうだ。
若宮さんは若い頃、輪島の小さな塗師屋に勤めていた。輪島塗は分業制なので、日々の仕事は木地、塗り、沈金や蒔絵の職人さんの仕事場回り。商品を問屋に卸し、ある時はデパートの売り場にも立った。製造から販売まで一通りのことを知った。
自分では、輪島塗は日本一、いや世界一だと信じていた。ところが本物の漆器を求めるお客様から言われた言葉は「この程度か」。大きな衝撃を受けた。美術館に並ぶ、江戸や京都の素晴らしい漆器。そんな漆の美と技を今に求めているお客様がいた。
実家は農業。米作りのほかに漆の木も育て、漆を採取していた。15年20年と育てても、1本の木から採れる漆は平均200g。
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しかも、漆を掻き終えた木は寿命を終える。年季明けして独立し、蒔絵を学びながら、そんな大切な漆を塗らなければならないものとは何だろう、と苦しみ抜いたそうだ。
そして、それから約10年。木地、塗り、沈金、蒔絵、螺鈿─輪島の美と技術と誇りを結集し、本物を求める人たちにお見せできるものへ、ついに辿り着いた。難しい言葉はいらない。ゾクゾクするような美と技の結晶。一つ一つに物語がある。蓋物「蛤型獏」には、いつまでも夢を見続けたいと、悪夢を食らう獏が寝ている。
日本にとどまらず、漆(JAPAN)という日本を背負い、世界に羽ばたいて欲しい。期待は膨らむばかりである。 |