加賀百万国のはじめまして
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・平成16年度選定商品カタログ

Debut「加賀百万国のはじめまして」
Debut「加賀百万国のはじめまして」
審査会終了後の講評をまとめてみました。  構成/事務局 松山治彰

もっと生活の中でクラフトを愉しんで欲しい


大田 淳子 氏
(有)オープランニング代表(神戸)

増田 尚紀 氏
(有)鋳心ノ工房 代表(山形)
(社)日本クラフトデザイン協会理事

多田 鐵男 氏
陶房「鐵」代表(石川)
石川県クラフトデザイン協会理事長
誰か新しい人を。何か新しいものを
事務局  まず(財)石川県デザインセンターについてご説明しましょう。私たちは石川県、金沢市、金沢商工会議所はじめ産業支援団体やデザイナー団体のご支援をいただきながら、デザインという生活者の立場に立った商品開発の考え方を普及し、地域の産業の高度化を図ることを目的として設立され20年になります。
  このカタログに紹介する作品は、地域の目でみたデザインの優れた商品を選定し、ギフトショーに出展するなど新しい販路の開拓に努めているものです。
誰か新しい人を。何か新しいものを   ギフトショーではご来場の皆様からいろいろなご意見をいただきました。そしてここ5〜6年は有名作家さんに続く「誰か新しい人」を、伝統的な工芸品ではない「何か新しいもの」を紹介し、ご来場の皆様はもとより、選ばれた人たちからも大変ご好評をいただいています。
  これまでに若手からベテランまで100名を越す作り手たちをご紹介してきました。新しい商品を作る度に何度もご登場いただいた人も沢山いるんですが、今回ベテランにはちょっとお休みいただいてDebut(デビュー)をテーマに、これまでご紹介したことのない新しい人たちにご登場いただきました。
  でも若ければ何でも良しという訳にはまいりませんので、クラフトの専門家の皆様に見ていただき、「グッド!」というものをご紹介しようというものです。
■多田  私は石川県クラフトデザイン協会という50名程の、創作の軸足を「生活のための工芸」におく作り手たちの集まりのお世話をしています。
  いろいろ、若い人たちの動きは見ていたつもりなんですが、知らない人が沢山いて、本当に若い世代が工芸の道に進んでくれて、誠実に、もの作りに励んでいることを知り、嬉しい思いで一杯です。
■増田  私も日本クラフトデザイン協会の理事をしたり、「日本クラフト展」をずっと見てきましたが、近年のクラフトが生活のための工芸から、アートというか、個人の創造性の発揮としての工芸に変わっていることを実感し、山形に住むものとしては少し寂しい思いをしてきました。
  でも今回、輪島とか山中、金沢という「地域」に腰を据え、一生懸命「生活のためのもの作り」に取り組んでいる人たちが沢山いることを知り、内心「ほっ」としています。

地域からの、生活のための、良質な手仕事を
■多田  特に石川は、日展や日本工芸会に属する人たちの層が厚いところですし、県民も伝統的な工芸を好む人たちが圧倒的に多いところです。
  ですから、アート以前のクラフトでもまだまだ厳しいものがありますが、みんなそれぞれの思いでがんばっている。あまり生意気いうと回りからしかられますが、いろんな評価の基準があっていいと思います。ですから、この事業で新しい創作に取り組む人たちに光りをあて、東京デビューの第一歩となることは大変意義深いものがあると思います。
■大田  お客様の好みに対応するために売り場も大変です。いつまでも大先生の作品だけでは、お店も売り場も維持できません。ですから約20万人という人たちが「何か売れそうなものがないか」と必死になってギフトショーに来るんです。
  ものが溢れている時代と言われていますが本当でしょうか。確かに欧米の一流ブランドからアジアの雑貨、100円ショップに行けば何でも揃う時代かもしれませんが、胸を打つ何かがない。本当に使う人の気持ちになった、良質な手仕事のようなものがあまりにも少ないように思います。
  その土地土地の受け継がれてきたものとか、その商品が作られている背景というか理由みたいなものも欲しいですね。
■増田  私なんか、今でもそうした思いにどっぷり浸かっていますし、まして山形という鋳物産地で仕事をしてきましたので、地域から逃れることのできない宿命というか、贅沢ではない本当の豊かさみたいなものとか、日本に生まれ育ったということみたいなことを今一度考え直してみたい時期だと思います。

家族の絆のようなクラフト
■大田  そうして見るとここにご紹介する石川の人たちは、本当に「ほっ」としたものを感じます。
家族の絆のようなクラフト   工芸品が売れないとか全国の産地で後継者不足が叫ばれている中で、山中の木地師を父に持つ山田さんや大阪からこの道を目指してやってきたという奥のさん、お二人とも若くて可愛くて「えっこんなひとが轆轤をまわしているの」って驚かされました。でもその作品は、難しい工芸の議論なんか吹き飛ばして「かわいい」「素敵」って手が伸びますね。
  輪島の大崎さんや大工さんには、塗師屋の奥さまが、自分たちが「日々の生活の中で使いたいもの作り」に素直に取り組んでいて、手の内の幸せというか、家族愛みたいなものを感じさせてくれますね。
  工芸都市・高岡クラフトコンペで審査員の山田節子さんが、山中の谷口さんたちを評して、家族の絆の大切さを書いていらっしゃいましたが同感です。増田さんもどっぷりですが、新しい時代のクラフトに求められるものの一つは、家族の絆、受け継がれるクラフトマンシップのようなものかもしれませんね。
家族の絆のようなクラフト ■増田  金属に携わるものとして、加澤さんの「鍵」は大発見でした。お父さんは、全国の漆や木の作家さんの作品の蝶番などの金具を作っていらっしゃる腕のたつ職人さんですが、表に出る仕事ではありません。
  お嬢さんも回り回ってこの道に入られたと聞きますが、この「からくり細工」のような鍵をみると、理屈抜きに欲しくなりますね。
■大田  家族のことばかり言うと、ほかの人がひがんでしまいそうですが、本当に皆さん、素直に、それぞれの個性を大切にしたもの作りに取り組んでいらっしゃいますね。

もっと生活の中でクラフトを愉しんで欲しい
もっと生活の中でクラフトを愉しんで欲しい ■大田  どこの売場でも、ガラスが求められているんですが、思いの外、どなたも似たり寄ったりで、ワイングラスやボウルばかりなんですね。
  そんな中で、今井さんや清井さんのガラスは個性が感じられていいですね。特に今井さんの作品は、ウールが巻き付けてあって、ガラスなのに暖かそうで、色もきれいだし、可愛くていいですね。
■多田  おかげさまで石川は、金沢美術工芸大学をはじめ、金沢卯辰山工芸工房、輪島漆芸技術研修所、九谷焼技術研修所、山中漆器産業技術センターなど工芸の教育機関が本当に充実しています。全国から若者が集まり、工芸を学んでいます。卒業しても、その多くはこの地に残ってくれ、結婚して、小さな子供を抱えながら、ご夫婦で助け合って創作に取り組んでいる人たちが沢山いることも、嬉しく、頼もしい限りです。
■事務局  いろいろとありがとうございます。
  私たちとしてみれば、デザイン活用による地場産業も重要課題なんですが「もっと生活の中で、クラフトを愉しんで欲しい」という思いに溢れて頑張っている人たちが沢山いることも知って欲しいんです。
  このカタログをご覧いただいた方で、少しでもこうした人たちの思いに「そうだね」とうなずいていただける方がいらっしゃれば、作り手の皆様方に声をかけていただければ幸いです。



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