「すべてが揃う現代の家庭で、ただ一つ、抽象彫刻だけがないんですよ」と語る東京のインテリアショップ店主との出会いが、木下さんのオブジェ制作の始まりだという。
木下さんは、木のアーティストである。20年ほど前、我が子が喜ぶことから始めた木のパズル作りが評判となり、それがきっかけで木工芸の世界に深く入り込んでいった木下さん。美大時代には専攻のデザインを放り出して彫刻に夢中になり、除籍処分となったという彼らしく、その作品は実に楽しくて自由だ。
いっとき没頭した人文字は、言葉や文字を人間のポーズで表したユニークな作品。また、喫茶店主に頼まれて木の切れ端で作ったスプーンは、柄が曲がっていたり、あらぬ方向を向いていたり…。 |
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木がうず高く積まれたアトリエから、表情豊かな作品が次々と生み出されている。
今回出品のオブジェは、家庭という狭い空間でも楽しめる抽象彫刻である。デンと構えた大きなものでなく、高さが20〜30cmで卓上や窓辺に置ける気軽感が魅力だ。また、猿の楊枝たては変化する表情がおもしろいし、箸置きは一つにして片付けられるのがうれしい。
「型にはまったものは作りたくない。私が楽しんで作れば、使う方もきっと楽しいはずですから。そばに置いて、さわって、感じてほしいですね」。一つ一つ、木目を見ながら丹念に彫り出された唯一無二の木彫たちは、温もりと遊び心に満ち満ちている。 |