輪島塗の産地で、しかも漆器屋に生まれて漆器屋に嫁ぎ、幼い頃から当然のように身近に漆があった塩士さんは、女性の立場で自分が使いたい用の美を重視した輪島塗の製造に取り組んでいます。
2000年結成の「彩漆会」メンバーとして、学校や地域の子供たちに輪島塗で食事してもらったり、テーブルコーディネートを通じて輪島塗の使い方提案を行うなど、一人でも多くの人に輪島塗を使ってもらおうと活動を続けています。
「伝統を守ることは大切ですが、それを破り、離れ、現代の生活空間に合った形や色、文様を再検討しないと使ってもらえなくなります」と真剣に話す塩士さん。
彼女は今、温もりがあって傷付きにくく、日常使いにも好まれる新技法――無地乾漆に乾漆粉で文様を描き、彩りを加えた“彩本乾漆”に挑戦しています。 |
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作家ではなくプロデューサーとしてのモノ作りは、コンセプトやストーリーが明確でないと作り手に伝わらないため、イメージのラフや製図、模型作成を行い、木地・下地・上塗・加飾などの職人と対面で取り組みます。
温度と湿度に十分気配りし、わが子同様の愛情で手間暇かけて丁寧に製造される輪島塗で、彼女が一番作りたかったのが、今回の“漆小箱”。「この小箱は、母と子の絆、御臍帯(へその緒)を収めるのに使っていただければ…」。
大切な品を大切に作られた漆小箱にぜひ―と大らかな母の優しさでこよなく輪島塗を愛する塩士さんの笑顔が印象的でした。
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