随分前のことですが「化学肥料で育った桑を食べた蚕の糸は弱く、琴や三味線の音色が昔に及ばない。化学肥料で栽培された藍では昔のようにきれいに染まらない。経済効率だけで考えていては伝統文化は根本の部分で崩壊する危険がある」という新聞記事をみて、工芸は農林業と深い係りを持っている。その恩恵を忘れてはいけないと痛感。中国などアジアからの漆製品に押される昨今ですが、国産の原木を使い、下地、下塗り、上塗りなどすべて化学塗料ではなく本漆を使用する。外部にデザインを依頼するのではなく全て自分で考える。それが隆さんが「たに屋」を創業して26年。昔も今も、またこれからも変わらぬ男意気です。 |
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奥様の睦子さんとは、30年近く、いたわり合い励まし合い、夫妻はもちろん、職人さんたちの信頼関係も大変大きなものがあります。今回、いろいろご紹介するなかで「ふり振り椀」という可愛らしいネーミングの椀は、椀の外側と内側で中心をずらして挽いたことで、縁の厚い部分と薄い部分が出来たもので、上手にお椀を持つことができなくなったお年寄りが持ちやすく、厚い方にはスプーンを一時的に置いたりできる小谷口さんの優しさが形になっています。伝統の産地にありながら、常に時代に対応した柔軟な発想は、これまでにグッドデザイン賞にも6点選定されており、日本人の自然を思う心、日本人の生活と手の感覚を大切にしたいという気持ちに溢れています。 |